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社史ライターのつぶやき~社史という名の長丁場の難工事

社史の取材が始まると、まるでトンネル工事に入るような気持ちになる。

社史は、言うまでもなく一人では決して完成しない長丁場の難工事である。その道程は長く辛く、忍耐力の試練の場となる。自身の経験で言えば、制作期間は約一年半程度が標準だが、これまでに一度だけ、二年半もの工程を要したことがあった。

それは、製造関連企業の仕事で、三年後に迎える創業五十周年の記念式典をめざし、十五名もの社史制作チームが結成された。ある日、十一月のひどく寒い日だったが、われわれ制作スタッフとの初顔合わせを兼ねたキックオフミーティングが行われた。ところが、それからまもなく社史制作は完全にストップすることになった。先方の担当者は広報部長といういわゆる役員クラスで、責任のある地位にある。土日祝もなくお忙しい方で、本来の仕事以外に社史制作の指揮を執ることができず、やむなく時ばかりが過ぎていったというわけだ。

結局、キックオフから一年が過ぎた頃になってようやく社史制作は急ピッチで進み始めた。工期を取り戻すための突貫工事のように思え、果たして足並みがそろうのか、ついて行けるのか、内心は不安で一杯だった。そんな折り、広報部長の力量に感心させられたことがある。それは、本来のスケジュールのほぼ半分の期間(実質約二カ月)で、段ボール箱二つ分もの完璧な基礎資料を用意してくださったことだった。会社の歴史がテーマごとに系統だって整理され、その読み込みと理解が全員の目標となった。知識を身につけることで不安は徐々に払拭され、まさしく突破口となって工程は滞りなく進んでいった。資料は単なる情報源ではない、資料は知見そのものであり、発破として全体を動かす起爆剤ともなる。

最後の取材を終え、制作スタッフをわざわざ最寄りの駅まで見送りに来てくださった広報部長の言葉は今も覚えている。

「急がせることになって申し訳ございませんでした。お陰様で、わが社も今回の社史制作によってまた一歩成長することができると思います」

五十年を超える企業が、「成長」という言葉を口にしたことに私はちょっぴり感動した。
社史制作の作業は長く厳しい。しかし、教えられることは多く、苦労を全員で共有できる喜びもある。暗く長いトンネルが貫通した時、作業員全員で祝杯を上げたくなる理由も、まさにそこにある。

 

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阿部 諭
Writer 阿部 諭

1966年、広島県福山市生まれ。出版社の営業マン、印刷会社でのコピーライター・プランナー・エディター・ディレクターを経て、2012年に企画事務所EXPRESSを設立。社史、編集コラム、広告コピー、広告プランニングを中心として活動している。社史はライフワーク。座右の銘は「志、高く」。

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