~楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)~
キユーピー(本社・東京都渋谷区)はマヨネーズのシェアが6割を持つ大手食品メーカーだ。1919年に創業と3年後には創業100年を迎える。同社の社是は「楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)」だ。「志を同じくする人が仕事を楽しみ、困難や苦しみを分かち合いながら悦びを偕(とも)にする」という意味で、創業者の中島董一郎の思いが込められている。
1973年に90歳で亡くなった中島は農商務省の海外実業実習生に選ばれ、欧米に派遣されマヨネーズに出会った。帰国後、1919年に各種食料品製造の「食品工業」(キユーピーの前身)を設立し、1925年からマヨネーズの製造を開始した。中島は「楽業偕悦」のために心がけることとして、「道義を重んずること。つまり目先の損得ではなく、何が本当か、正しいかということを判断の基準とする」と述べている。キユーピーは戦中、戦後の5年間、良質な原料が確保できず、マヨネーズの製造を中止した。「品質を落としても製造すべき」という社員もいたが、草むしりをして耐え、志を同じくする社員だけが残り、再開にこぎつけた。「目先の損得でない正しさ」を重んじた社是が精神の支柱となったのだろう。
中島は「世の中は存外公平でないものであり、もし公平でない結果が出たとすれば、道義を重んずることに問題はなかったか、創意工夫に欠けていたからではないかと反省をしてみてください。そうすれば必ず、公平な結果がでてくるはずです」と語り、道義とともに創意工夫の重要性を指摘。さらに、「親孝行のできる人とは、人の好意をありがたく感じ、それに報いることができる人です。そういう人の周囲には、また、好意を持って接してくれる人が集まり、その会社はおのずから発展するはずです」と、親孝行の大切さを説いている。これが、社訓の「道義を重んずること 創意工夫に努めること 親を大切にすること」に姿を変えた。
「道義を重んずる」は「法令の遵守」や「公正・健全な企業活動」といった倫理規範と「品質第一主義」「ダイバーシティの推進」といった行動規範からなる「グループ規範」に反映されている。ユニークなのは「反贈賄基本方針」だ。「目先の利益獲得につながるとしても贈賄は行わない」と宣言している。「親孝行」では、創業者の発案により社員の親に中元と歳暮を送っている。会社が毎月千円分を積み立て、半年ごとに親元に送金する制度もある。社訓が形になって今も残っている。創業者は「公平さ」にこだわったが、キユーピーでは社長から新入社員まで、「さん」づけで呼び合うことが当たり前だ。「人間としては、立場は同じ」であり、「誰が言っても正しいことは正しい」との思いを社員が共有している。社是、社訓を通じて創業者の思いは輝きを失っていない。