~福とは“豊かさ”である~
サントリーと共同開発した日本茶のペットボトル入り緑茶飲料「伊右衛門」で有名な宇治茶の福寿園(本社・京都府木津市)は、創業が江戸時代の寛政2年(1790)と226年の歴史を誇る老舗だ。家訓は「無声呼人(むせいこじん)」だ。「声なくして、人を呼ぶ」ということで、徳のある人のところには、呼ばれなくとも人が集まるという意味だ。大声を出してアピールしなくても、品質の優れたものづくりをしていれば、お客様自らお越しになると品質重視のものづくりと信用を大切にすることを説いている。京都市内の目抜き通り、四条通りの京都本店1階に掲げられている。
この家訓を肉付けした社是は「福とは“豊かさ”である」だ。「豊かさ」を具体化するのは「信用」「得意先」「技術」「人材」「資本」の5つの蓄積で、仕事を通じて社会の発展に奉仕し、豊かな生活を築きあげることができる。誠意を持って人に接し、熱意を持って仕事に取り組み、信用を蓄積。社格ある得意先を多く掴み、創意工夫によって価値ある商品を生み出す技術を蓄積。己に厳しく勇気をもって困難に挑み、不可能を可能とする人材を蓄積し、自己資本を充実させ、現実を踏まえて夢を持つことができるよう資本を蓄積する。これを実行していくには、「守り」だけでは達成できない。
製造加工まで行い、全国に直営店を広げている。自動販売機やコンビニでペットボトルの緑茶飲料は売れているが、急須に茶葉を入れて熱いお茶を楽しむ人は少なくなった。サントリーと共同開発して2004年に「伊右衛門」を売り出したのも、そういった社会の変化に対する危機感があったからだ。「伊右衛門」は初代の福井伊右衛門にちなんだネーミングで、失敗は許されない。茶葉で淹れた味や香りを再現するため研究を続け、その成果が大ヒットにつながった。2008年にオープンしたモデルショップの京都本店には宇治茶とフレンチがコラボしたレストランや多くの茶葉からブレンドして自分好みの茶葉を作る店も入っている。茶の需要拡大を狙った展開だ。茶をCHAと捉え、Culture(文化) ・Health(健康)・ Amenity(快適)を創造するティーライフ創造企業を目指している。2014年には世界のCHAを体験できる福寿園CHA遊学パークを木津市内にオープンした。2001年のシンガポール店を海外第1号店として、海外に3か店、約50か国に輸出しており、世界にCHAを広げようとしている。グローバル化しても家訓と社是は変わらない。