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【新連載開始!】思いを伝える社是・社訓①~コクヨ

~「商品を通じて世の中の役に立つ」~

はじめに

企業にとって最も大事なのは人だ。人を育てていくことで、新しいビジネスを開拓できるし、社会に貢献できる。一時の利益に目がくらみ、道を外れることのないよう人を育てていくために、企業理念を伝える社是・社訓が大きな役割を担う。会社の顔とも言える「社是・社訓」から企業や創業者の思いを探る。



今年10月に創業110年を迎えた事務機器、文房具大手のコクヨの企業理念は「商品を通じて世の中の役に立つ」だ。
創業者の黒田善太郎は、富山から大阪に出てきて奉公したが、1905年に和式帳簿の「大福帳」の表紙を作る黒田表紙店を開業した。表紙は帳簿全体の価格の5%というわずかな稼ぎだが、工夫をこらしてシェアを取り、さらに帳簿全体を作るようになった。「面倒で厄介なカスのような仕事でも、世の中に役に立つと信じて、その価値を極めれば必ずや商売になる」という創業者の和式帳簿での実体験は、「カスの商売」と名付けて創業の精神として健在だ。「世の中の役に立つ」という企業理念は、創業の精神に裏打ちされている。
企業にとって最も大事なのは人だ。人を育てていくことで、新しいビジネスを開拓できるし、社会に貢献できる。一時の利益に目がくらみ、道を外れることのないよう人を育てていくために、企業理念を伝える社是・社訓が大きな役割を担う。会社の顔とも言える「社是・社訓」から企業や創業者の思いを探る。
コクヨの由来は商標の「国誉」だ。ただし、この国は創業者の出身地である富山(昔の国名、越中)を意味し、その誉となることからだ。店名を「黒田国光堂」とした時期もあったが、これも越中の国の光となることが由来だ。生まれ故郷の誇りとなるという強い理念があったのだ。

「人は無一物でこの世に生を享け 父母の恵み、恩師の導き、社会のお陰によって心身ともに成長し、やがて社会に出て一つの仕事を与えられる。それは天より授けられた天職である。天職には貴賎の別なく、人が生ある限り自らの全力を尽くして全うせねばならぬ。天職を全うするには、人の信を得る事が最も大切である。人に信を得る最善の道は、自ら誠を持って実行する事である。真心を以って買い、造り、そして売れば人おのずから信用し、人に信用を受ければ天職はおのずから全うしうる。誠心誠意不言実行ーこれが私の経営信條である」
創業50年に創業者が発表した「経営の信條」は、行動規範であり、社内で社員に唱和されている。信條の「誠心誠意不言実行」はコクヨの「行動指針」でもある。信用の大切さが根本にある。商売も信用あってのものだと、改めて思う。新しい事業や製品が出てきもても、基本は信用を決して裏切らない誠であり、愚直にそれを実行して製品開発や営業に生かしていくことに尽きる。創業者の思いが、今なお息衝いていること、初心に戻るべき社是・社訓があるということは、所属する社員にとっても大きな誇りだろう。

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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