先代CEOの山本徳次名誉会長がまとめた~末廣正統苑(すえひろしょうとうえん)~
「たねや」グループ(滋賀県近江八幡市)は全国に50店舗、売上高約200億円という和洋菓子製造販売の大手企業だ。バームクーヘンの「クラブハリエ」もたねやグループの一員だ。江戸時代に材木商に端を発し、種苗を扱うようになった。「たねや」の屋号の由来だ。1852年(明治5年)に「種屋末廣」の屋号で菓子業を始め、創業以来の「栗饅頭」は健在だ。
「たねや」グループの社訓は、先代CEOの山本徳次名誉会長が1984年に商いへの心得をまとめた「末廣正統苑(すえひろしょうとうえん)」に込められている。9代目当主で「たねや」3代目の山本名誉会長は、東京のデパートに出店するという節目に、経営理念や基本方針をまとめ、和綴じの冊子にした。京都在住の劇団主宰者、長田純氏の協力を得て完成したもので、先代の父親から教えられたことや、近江商人の実践的な行動理念などが盛り込まれている。
「『商い』とは福を見つけ 福をつくり 福分けをすることと覚ゆれば商行(あきない)の心 次の五条と心得べし」という商人心得五条は、
一に 商人は何事も「手塩にかける」ことと心得べきなり
二に 敬う心こそ商人の心の芯なり
三に 正直にして有難き合掌感謝の心こそが 明日の商ひを呼び寄すなり
四に 工夫の心
五に 装ひの心
商品を自分の娘と思って大切に大事に作り、商品を買ってくださるお客様への感謝の心を忘れず、何よりも嘘をつかない。常に工夫を重ねることが明日の商いの糧となり、惹きこまれるような魅力のある雰囲気や個性、豊かさという「装い」が商品に反映されそれがお客様への礼儀となる。
「たねや」の経営理念である「商道は人道である」「手塩にかけること」「今日如何にお客様によろこんで頂けたかの心」はそれを集約したものだろう。
また、終業時には「一つ 私は素直な心でいただろうか 二つ 私は人様の無事と倖せを祈る心を忘れはしなかったか 三つ 私は正直と敬う心を持っていただろうか 四つ 私は装う心を大切にしていただろうか 五つ 私は手塩にかける心を忘れてはいなかったか 六つ 私は感謝の心を持っていただろうか 七つ私は親切の心を大切にしていただろうか 八つ 私は活き活きする前進の心を持っていただろうか」という「八つの心」を全員で唱和する。
「末廣正統苑」の内容を確認し、日々の反省に役立てるのが狙い。社員全員が自分で冊子を購入し、新人研修や業務が始まる前に音読したり、管理職会議でも輪読したり、まさに「たねや」のバイブルとなっている。社員が1000人に増えても、一人一人に社訓や行動指針が徹底できるのは、こうしたシステムに支えられている。