用字用語の統一に厳密さは必要か
20年近くも前のこと、「年史開眼帖」という小冊子を上梓しました。幸か不幸か、社史編纂を命じられたご担当者に向けて、「経験はなくとも何程のことはない」と、既成概念にとらわれず、自由な発想で取り組むことの大切さを説いた本です。何せ心構えですから、実際に役立つことは何も書かれていません(受け取りようですが)。「編纂の仕方は人それぞれ、創意工夫に価値あり」とうそぶいてきたものの、「より実践的で編纂実務に則した内容の開眼帖がほしい」と、有り難くも悩ましい声をいただくことが年々増えて・・・。そこで、いよいよもって重い腰を上げて、年史開眼帖【実践編】を著すこととなりました。晴れての第1回は「用字用語」です。
用字用語の統一に厳密さは必要か
年史編纂の制作実務において、一番悩ましい作業の一つが用字用語の統一でしょう。初期の段階で「執筆要領」や「執筆・校正の手引き」といったものを作成し、一定のルールをもって執筆に臨むのが一般的です。が、プロであれアマであれ、執筆者は用字用語を念頭に記述するエネルギーは持ち合わせていません。そこで、上がってきた原稿に朱入れをするのが編集者や校閲者という専門職です。朱入れの際に用字用語も統一していくわけですが、厳密に用字用語をルール化しておかなければ、専門家であっても最後まで迷いの渦中から抜け出せなくなります。
例えば、経験的に常に迷うものに「なか」「もと」「いう」などの使い分けがあります。
【なか】 机の中 状況のなかで
【もと】 方針の下で 史料を基に 元に戻す
【いう】 彼は言う 彼は旅に出たという
紛らわしい表記例はいくらでもあります。正解があるのかないのか、とても微妙ですが、要は最初にルールを決めて、原稿が上がるたびに変更・更新していけば良いのです。新聞社が発行する記者ハンドブックや用字用語辞典などが参考になります。ただし、新聞はタテ組、社史の多くはヨコ組だということもお忘れなく。新聞のルールがそのまま適用できるわけではありません。決めるのは、担当者のあなたです。ですから、「なかはすべて中」「もとはすべてもと」と、使い分けの選択肢をできるだけ少なくすることも有効です。変な言い方ですが、用字用語の統一で悩んでも、年史の出来映えにはあまり関係ないのではありませんか。