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思いを伝える社是・社訓⑭~永楽屋

~教訓大黒舞~

永楽屋(京都市中京区)は1615年、絹織物問屋としてスタートした。それ以前は織田家の御用商人として鎧の下に着る直垂(ひたたれ)を納めており、永楽屋の屋号と細辻の姓は信長から拝領したという老舗だ。現在は伝統の柄から、カラフルなデザインの手ぬぐい、風呂敷、帆布かばん、ファッション小物などを企画し、ブランド化して販売しており、若い女性を中心に人気だ。

永楽屋4代目によって江戸中期につくられた家訓「教訓大黒舞」がある。数え歌形式で子供にも分かりやすいように工夫している。

一に 一るい(類)むつ(睦)まじう(現代語訳 一族仲良くし)
二に 二志ん(親)へかうかう(孝行)し (両親に孝行し)
三に 衣食住おこる(奢る)なよ (衣食住を贅沢するな)
四に 四おん(恩)をわするなよ (一切衆生の恩、父母の恩、国主の恩、三宝=仏法僧の恩を忘れるな)
五に 五常を守るへし (仁義礼智信の五つの道徳を守りなさい)
六つ 無常をくはんすへし (この世の中は常に移り変わり、何一つとして永遠不変なものは無いということを理解しなさい)
七つ なんにも苦にするな (何も苦労と思うな)
八つ 病ひのないように (病気をしないように)
九つ 公儀の法を守り (世の中のルールを守り)
十て 特に入りならは これぞまことの大こく(黒) (徳を積んでいけば、これぞ本当の大黒=商売の神様である)

14代目を継いでいる細辻伊兵衛社長は、「400年続いているのはご先祖さんの力」と語り、家訓を経営にも生かしている。従業員にも徹底すべく、給与明細書の裏に家訓が印刷されている。細辻社長は細辻家の人間ではなかった。エンジニアからアパレル関係の仕事をしていたが、妻の実家の永楽屋の婿養子となった。社長就任時は債務超過に陥り、倒産の危機にも見舞われたが、リストラと新しい商品開発で危機を脱した。現在、店舗や従業員も拡大し、独自ブランドの構築により、京都発の老舗型SPA(製造小売)を展開している。

改めて家訓を読むと、江戸時代の商人道徳が、現在でも通用することを感じる。「一族仲良く」はチームワークの大切さを指摘しているし、「四恩を忘れるな」というのは企業の社会的貢献、ステークホールダーに対する配慮がにじみでている。「五常を守る」「徳を積む」は企業倫理の徹底だし、「ルールを守る」はコンプライアンスの大切さを説いている。細辻社長が家訓を大事にしている理由はここにあるのだろう。

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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