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思いを伝える社是・社訓⑫~クラボウ

~「同心戮力(どうしんりくりょく)」「謙受(けんじゅ)」~

クラボウ(倉敷紡績株式会社)は、明治21 年(1888)に現在の岡山県倉敷市で創業した繊維メーカーだ。クラボウの社是は「同心戮力(どうしんりくりょく)」。初代社長の大原孝四郎が座右銘としていた中国の歴史書「春秋左氏伝」の一節から取っている。群れている猟犬は互いに争っていても、主人と共に山に入って狩猟となると、協力して獲物を追いかけるという故事から、「目的を達成するためには、社員一人ひとりが与えられた使命に対して、心を一つに合わせて頑張ろう」という意味が込められている。立場や年齢の違いを超えて団結し、一人ひとりの能力や才能を目的の達成のために活用していく人間重視の社風は、社是によるところが大きい。

「社訓」は「謙受(けんじゅ)」だ。中国最古の歴史書である「書経」にある「満招損 謙受益 時乃道」からの引用だ。創業者の大原家の家訓でもある。「満足して驕り高ぶる者は損なわれ、謙虚に努力する者は利益を受ける」という意味だ。慢心せずに謙虚に努力することがいかに大事かを、創業者は社員に説いたという。「社旗」などに使われている社章は、社訓をデザイン化したものだ。上部は横2本の棒、その下に丸を三角形に3つ置いた「二・三のマーク」として知られる。たとえ一番になったとしても、常に二番、三番にいる気持ちで、一番を目指すつもりで努力する姿勢が会社経営の基本であることは忘れるなと諭している。

社是・社訓が儒教の古典をベースにしていることでも分かるように、クラボウは儒教精神が強い。社員を大事にするだけでなく、社会貢献をしていく社風が強い。二代目社長の大原孫三郎は工場労働者の夏場の職場環境を改善するために、空調の一貫として壁面に蔦を茂らせた。それが観光名所として残されている倉敷アイビースクエアだ。我が国初の孤児院を作った石井十次を全面的に支援し、社会福祉法人や病院を設立した。西欧美術の膨大なコレクションで知られる大原美術館も創設した。利益第一を排して、社会のために尽くしたのも社是・社訓が生きているのではないだろうか。

国産初の合成繊維ビニロンを開発したのは、クラボウから分かれたクラレだ。ベンチャー精神は創業時から受け継いできた大きな財産だ。「私たちクラボウは、新しい価値の創造を通じて生活文化の向上に貢献します」を経営理念に掲げている。繊維を軸にエレクトロニクスやエンジニアリング、バイオメディカルまで事業を広げ、新しい分野に挑戦している。

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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