周年倶楽部
  • twitter
  • facebook
  • RSS
周年倶楽部
35acf8f4a476944bc6b1130148586ec9_l

思いを伝える社是・社訓⑪~キユーピー

~楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)~

キユーピー(本社・東京都渋谷区)はマヨネーズのシェアが6割を持つ大手食品メーカーだ。1919年に創業と3年後には創業100年を迎える。同社の社是は「楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)」だ。「志を同じくする人が仕事を楽しみ、困難や苦しみを分かち合いながら悦びを偕(とも)にする」という意味で、創業者の中島董一郎の思いが込められている。

1973年に90歳で亡くなった中島は農商務省の海外実業実習生に選ばれ、欧米に派遣されマヨネーズに出会った。帰国後、1919年に各種食料品製造の「食品工業」(キユーピーの前身)を設立し、1925年からマヨネーズの製造を開始した。中島は「楽業偕悦」のために心がけることとして、「道義を重んずること。つまり目先の損得ではなく、何が本当か、正しいかということを判断の基準とする」と述べている。キユーピーは戦中、戦後の5年間、良質な原料が確保できず、マヨネーズの製造を中止した。「品質を落としても製造すべき」という社員もいたが、草むしりをして耐え、志を同じくする社員だけが残り、再開にこぎつけた。「目先の損得でない正しさ」を重んじた社是が精神の支柱となったのだろう。

中島は「世の中は存外公平でないものであり、もし公平でない結果が出たとすれば、道義を重んずることに問題はなかったか、創意工夫に欠けていたからではないかと反省をしてみてください。そうすれば必ず、公平な結果がでてくるはずです」と語り、道義とともに創意工夫の重要性を指摘。さらに、「親孝行のできる人とは、人の好意をありがたく感じ、それに報いることができる人です。そういう人の周囲には、また、好意を持って接してくれる人が集まり、その会社はおのずから発展するはずです」と、親孝行の大切さを説いている。これが、社訓の「道義を重んずること 創意工夫に努めること 親を大切にすること」に姿を変えた。

「道義を重んずる」は「法令の遵守」や「公正・健全な企業活動」といった倫理規範と「品質第一主義」「ダイバーシティの推進」といった行動規範からなる「グループ規範」に反映されている。ユニークなのは「反贈賄基本方針」だ。「目先の利益獲得につながるとしても贈賄は行わない」と宣言している。「親孝行」では、創業者の発案により社員の親に中元と歳暮を送っている。会社が毎月千円分を積み立て、半年ごとに親元に送金する制度もある。社訓が形になって今も残っている。創業者は「公平さ」にこだわったが、キユーピーでは社長から新入社員まで、「さん」づけで呼び合うことが当たり前だ。「人間としては、立場は同じ」であり、「誰が言っても正しいことは正しい」との思いを社員が共有している。社是、社訓を通じて創業者の思いは輝きを失っていない。

■この記事を広める
斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

Follow us
ソーシャルでも周年倶楽部を愉しもう。

カテゴリーから記事を探す
周年事業室

ページトップへ

Copyright (C) 1997-2024 ETRE Inc. All Rights Reserved.