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思いを伝える社是・社訓⑩~半兵衛麩

~感謝~

京都には江戸時代から続く老舗が多い。麩の「半兵衛麩」(京都市)も元禄2年(1689年)の創業というから、約330年の歴史を誇っている。初代半兵衛が宮中の料理人として覚えた製麩技術を生かして商売を始めた。玉置辰次会長は11代目当主だ。

代々の当主が受け継いできた家訓に「先義後利」と「不易流行」がある。「先義後利」は中国の古典「荀子」が原典で、「義を先にして利を後とするものは栄える」という意味だ。「金銭欲や出世欲によって商いをすると、人を騙してまで儲けようという、間違った考えを持つようになり、結局は破滅するが、まず人様のお役に立つことを考えて商売をしていれば、利益も自然に得られ、結果として栄える」という商人道徳を説いている。江戸時代に京都を中心に盛んだった石田梅岩の商人哲学「石門心学」に3代目が強く影響を受けたことが根底にある。また、「不易」は変わらないもので、「流行」は移り変わるもの。先祖代々受け継がれてきた考え方や製品の良さは受け継いでいくとともに、新しい技術の研究を怠らず、お客様に役立つ製品を提供していくことだ。

同社は先の大戦中と終戦後の統制経済で原料の小麦が手に入らなくなった時期があった。「闇市の小麦を使用しては麩に失礼」と玉置会長の父親である先代は商いを一時休業し、統制品でなくなるまで事業を再開しなかった。目先の欲につられて、闇で仕入れて儲けようという、商道徳を自ら否定することをしなかったのは、家訓が生きていたからだ。「不易流行」の方は、「京麩」の本質は変えず、大きさやパッケージ、料理法などの改良を加えている。チュコレート菓子やスープ用の麩なども製品化しており、現代にあった麩の道を探っている。

社是は「感謝」がテーマとなっている。一番目の「人さま ありがとう」は、「お客様に 納入してくれる人に お電話の人に 一緒にお仕事する人に 過去の人も 生きている人も みなさま ありがとう」と関係するすべての人への感謝だ。「いろいろなものに ありがとう」「ご縁を ありがとう」「自然に ありがとう」と続き、最後は「ありがとう と」だ。「繁栄と幸せに感謝し みんなからも ありがとう といわれるひとになりましょう」と結んでいる。すべてのことにいつでも「ありがとう」の感謝の気持ちを忘れないというシンプルだが、心にじんわりと迫ってくるものがある。「ありがとう」が素直に響いてくる。300年の時を超えて家訓の思いは現代に生きている。

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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