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思いを伝える社是・社訓⑨~中川政七商店

~こころば~

南都寺院の僧侶の袈裟などに用いられ、起源をたどれば鎌倉時代までさかのぼる麻織物「奈良晒(ざらし)」は奈良を代表する伝統工芸品だ。
株式会社「中川政七商店」(奈良市)は、享保元年(1716年)に創業、今年が創業300年の記念の年に当たる。伝統の奈良晒を生かした「ふきん」や茶巾などの茶道具だけでなく、デザイン性のある生活雑貨の製造・販売で首都圏にもブランドごとに小売店舗を展開している。伝統工芸の世界でいち早く商品開発、製造、流通、小売まで一貫して自社で行うSPA(製造小売)に成功したことで知られている。自社製品の改革を通じてブランド力を上げてきた実績を生かし、地方の工芸品メーカーに商品企画とデザインを提供し、ブランド構築のコンサルティングや店舗運営のサポートもしている。

創業300年だが、不思議なことに同社には「社是・社訓」はなかった。奈良の老舗を全国ブランドにした13代目の中川淳社長は、2002年に富士通の営業職から家業に転身して、「社是・社訓」がないことに驚いた。古い体質の会社を立て直していく中で、「何のためにこの会社で仕事をするのか」というビジョンの必要性を痛感した。模索の中から組織の全員が常に心がける仕事上の心得を「こころば」と名付けて2006年にまとめた。現代版の「社訓」とも言えるだろう。
・正しくあること
・誠実であること
・誇りを持つこと
・品があること
・前を向くこと
・歩み続けること
・自分を信じること
・ベストを尽くすこと
・謙虚であること
・楽しくやること
の10か条だ。シンプルだが、働く人を尊重し、各人が人格や仕事を磨き、成長していくことが、会社にとって大きな財産になるという考えが込められている。

中川さんは、心得をまとめた後に「何がしたいのか」「何ができるのか」「何をすべきか」を考え「日本の工芸を元気にする!」というビジョンにたどりついた。明治以降、西洋から様々な品物が入り、日本の生活様式は大きく変化していく中で、日本の風土で培われてきたものが失われてきた。工芸品もそうしたものの一つだ。しかし、ものがあふれる現代だからこそ、利便性だけでなく日本人の感性に合うものが求められている。2008年に社長に就任してからは、このビジョンを徹底していった。今では社員らも「日本の工芸を元気にするために、お客さんに商品の良さを伝えている」という誇りと使命感を持つなど、大きく意識も変化」したという。ビジョンが「社是」となって企業の行くべき道を示している。

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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