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思いを伝える社是・社訓⑦~堀場製作所

~おもしろおかしく~

世界シェア80%の自動車エンジン排ガス計測システムなど最先端の分析・計測機メーカー、堀場製作所(京都市)の社是は「おもしろおかしく」だ。2015年7月に亡くなった創業者の堀場雅夫氏が作った。「人生80年のうち最も貴重な40年間を使う仕事で、“おもしろおかしく”なくて何のために生きるのか」と問い、「おもしろいと思ってやった仕事は、ほとんど成功している」という自らの経験から導き出された。

「おもしろおかしく」を社是にするまでには、紆余曲折があった。もともと堀場さんは社是を作るつもりはなかった。1971年に大阪証券取引所に株式を上場した際に、当時の大証理事長に会社の顔である社是を作ることを勧められ、社是の必要性を認識した。そして「おもしろおかしく」を思いついた。しかし、役員に相談すると、「社是らしくない」「ふざけすぎている」と賛成は得られず、一度は引っ込めたが、社長交代をした1978年に置き土産として、7年かけて社是を認めてもらった。

「おもしろおかしく」を従業員が各自実現していくために、「5つの“おもい”」を掲げている。
 ①誰も思いつかないことをやりたい
 ②技を究めたい
 ③自分の仕事や会社を誰かに伝えたい
 ④人や地球の役に立ちたい
 ⑤世界を舞台に仕事をしたい
「おもい」は「Omoi」と表記され、世界中の従業員が共有している。堀場グループは全従業員6000人の6割が外国人、売上高も海外が6割を占める。2013年の創立60周年を機に、世界中のグループ従業員全員が歌える英語の「社歌」を作った。「Joy&Fun」のタイトルは「おもしろおかしく」を英訳したものだ。従業員はすべて「ホリバリアン」とファミリーの一員であるという意識を持っている。

同社は堀場さんが京都帝国大学(京都大学)理学部在学中に創業したベンチャー企業の走りだ。ベンチャースピリットが今でも息づいている。50年以上前から毎月、社員の誕生日会が開かれ、会長、社長らが社員をもてなす。「おもしろおかしく」の精神がこんなところにも垣間みられる。人事評価でもネガティブ評価する欄をなくし、欠点や失敗をチェックするマイナス評価を排した。どんなアイデアを出したのか。どのような行動をしたのかといったプラス評価に重きを置いている。「おもしろおかしく」仕事をして、新しいことに挑戦していこうという思いからだ。現在の堀場厚・会長兼社長は「私の役割はHORIBAの価値創造です。そして、価値創造の源泉は従業員一人ひとりが社是の『おもしろおかしく』の精神を理解し、日々実践することにあります」とホームページで語っている。社是を通じて創業者は今も健在だ。

 

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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