~「一粒万倍」~
タキイ種苗(本社・京都市)は世界トップ5に入る種苗メーカーだ。天保6年(1835)に初代瀧井治三郎が東寺の門前で創業した。会社としてスタートしたのは1920年だ。「より良い種子を創造し、高品質種子の安定供給により社会に貢献する」が企業理念としてあるが、それを端的に表しているのが社訓とも言える経営信条の「一粒万倍」だろう。
良い種からは万倍の収穫が得られるが、悪い種をまけば、収穫も少なくて損害は大きくなる。品質の悪い種子を売れば、顧客の信用を失うことになるという意味だ。種子は見た目では、その良し悪しは分からない。収穫の時になって、病気にも強く、味も良く、収穫量が多いことで、優良品種であることが分かる。収穫が予想を下回ることになれば、農家からは次の年の注文は来なくなる。一粒の種子の重みを感じていればこそ、厳しい検査システムで、高い発芽率の種子を選別するなど品質管理に力を入れている。
タキイは「一粒万倍」の種子を追求して新品種を多く作ってきた。世界中から数十万種類もの種子を集めた「遺伝資源」と交配技術により、2000品種にものぼる新品種を誕生させた。国内シェアが70%というトマトのトップブランド「桃太郎」を始め、ナスやヒマワリで70%、ニンジンが60%と圧倒的なシェアを誇っている。また、米国、ブラジル、フランス、中国など海外10か国に拠点を持ち、120か国以上に輸出している。
研究開発が高品質種子を生み出す背景にある。各地域の気象条件や土壌の違いにより、その土地にあった種子も違ってくる。北海道、茨城県、長野県、滋賀県、和歌山県に研究農場を持っていることもタキイの強みだ。滋賀県湖南市の研究農場(約70㌶)には、付属園芸専門学校がある。1947年に開校し、次代の農業を担う人材を育成するため、栽培技術などを1年間かけて実習しながら学んでもらう。高校を卒業した24歳以下の独身男性を対象で、60人が学んでいる。入学金、授業料、寮費、食費は無償で、研究活動費も支給されるのが特徴だ。これまでに3000人以上の卒業生を出し、農業の現場で活躍している。
こうした先を読んだ活動や研究開発への投資を支えているのは、会社設立以来、「無借金経営」を基本とした堅実な経営だ。資金的な余裕があったからこそ、「一粒万倍」の理想を実現するため、たゆまぬ改善、改革ができたのだろう。信用を大事に本業に徹し、守りだけではない、攻めの経営が老舗のDNAとして受け継がれている。