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思いを伝える社是・社訓②~カイハラ株式会社

~「桃李不言下自成蹊(桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す)」~

カイハラはファッションジーンズ用のブルーデニム生地の世界的メーカーだ。リーバイス、エドウィン、ピエール・カルダン、ユニクロなどが世界の有名アパレルメーカーが顧客となっている。ブラジル、アメリカ、インドなど世界の良質な原料綿花を選別して輸入し、紡績、染色、織布、加工まで一貫生産している国内唯一の企業だ。高級デニム生産量は国内の50 %、輸出では70%のシェアを占める。
広島県福山市の本社には「桃李不言下自成蹊(桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す)」と書かれた看板が掲げられている。「李」はスモモ、「蹊」は小径のことだ。「桃やスモモの花は美しく、実もおいしい。何も言わなくても自然に多くの人が集まり、そのために木の下には小径ができる」という意味で、司馬遷が書いた「史記」の「李将軍列伝」の一節にある。良い製品を作り続けていれば、お客さんはついてきてくれると、創業者の貝原助治郎が好んで社訓、家訓としたという。
カイハラは1893年に手織藍染絣製造の個人商店として誕生した。地元の福山地域は備後絣の産地で、同社は農作業用のモンペの生地製造で事業を始めた。絣の需要減少していく中で、1970年、デニムに軸足を移す決断した。創業から培ってきた藍染の技術を生かして、デニム用の染色機を自社開発したことが大きな武器となり、日本のデニム染色のパイオニアとなった。一時は倒産の危機もあったが、デニムへの転換で建て直した。染色だけに満足せず、紡績、織布などの工程も手がけ、生産の垂直統合を実現し、世界的なメーカーになった。ナンバーワンとなっても、驕ることなく、製品開発や製造工程の効率化、検品による徹底した品質管理に取り組んでいる。

自然の恵みを生かした最善の技術から最良のテキスタイルを生み出すことを 永遠のテーマとして社会に貢献する」を企業理念としている。自然の素材を生かしたデニム生地を、風合いや肌触りなどの細かいニュアンスを実現できるのは一貫した生産体制を持つ技術力が支えている。不断の努力の大切さが企業理念から伝わって来る。その結果、品質の良いデニムを求めて、世界のアパレルメーカーがカイハラに集中する。社訓の「自然に人が集まり、小径ができる」という教えは、今も生きている。社訓の精神を忘れないようにという思いからか、カイハラ本社の敷地内には、桃やスモモが植樹されている。

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斎藤 治​
Writer 斎藤 治​

1954年青森県弘前市生まれ。'79年慶応大学商学部を卒業し、読売新聞大阪本社入社。広島支局(現広島総局)、姫路支局勤務を経て,'82年大阪本社社会部、'85年政経部(現経済部)、'88年東京本社経済部(重工業クラブ、建設省、通産省担当)、'91年大阪本社政経部(金融、機械、財界などを担当)、'98年経済部次長、2001年調査研究室(現論説・調査研究室)研究員、2007年同主任研究員、2012年6月記事審査部委員、2014年9月退職。現在、フリージャーナリスト。白鷹堂代表。

大阪大学大学院(国際公共政策研究科)、関西学院大商学部、武庫川女子大などで非常勤講師。読売新聞大阪本社で長期連載した「技あり関西」取材班として2006年坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。関西日本香港協会理事、同華人研究部長。2003年から始まった華人経営塾「チャイニーズ・マネージメント&マーケティング・スクール」のモデレーターを務めている。共著に「日中韓の戦後メディア史」(藤原書店)、「時代の車窓から見た中小企業」(晃洋書房)、「時代の証言者売新聞社)など。

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